2009年8月13日 (木)

さっちゃん

Iさんが夜遅くに帰宅すると、固定電話のランプが点滅して、留守電のメッセージがあることを告げていた。
再生してみてびっくりした。午後七時から七時半のあいだに、二十件ものメッセージが録音されていた。しかもそのメッセージというのが、
「あたしさっちゃん、いま大宮にいるの」
なんていう内容で、順番に聞いてみると、どうやらそのさっちゃんとやらは、大宮を出発して、Iさんが住んでいる横浜に、だんだん近づいてきていることになっていた。
これはもう、ありがちな都市伝説をネタにした、悪友の悪ふざけにちがいない。
仕事で疲れていたのでまともに取り合う気にもなれず、Iさんはメッセージを聞かずに全消去すると、風呂に入った。
風呂から出ると、また固定電話に留守電メッセージが録音されていた。
風呂に入っていた数十分のあいだに、五十件ものメッセージが溜まっていた。
何件か再生してみると、さっちゃんは最寄り駅に到着し、Iさんがいつも使っている道をたどってIさんのアパートに向かっていることになっていた。
イタズラにしてはたちが悪いし手がかかりすぎている。なによりIさんには、ここまでの悪ふざけをする友だちの心当たりがない。
もしこれがほんものだとしたら、さっちゃんはいま、どこらへんを歩いているんだろうか。そろそろアパートに着くころなんじゃないのか。
そんなことを考えていたら、呼び鈴が鳴った。
Iさんは、出なかった。しつこく鳴らされたけれど、耳をふさいで無視した。
翌朝、一件だけ留守電が入っていた。
「あたしさっちゃん。お留守みたいだからまた今度くるね」
外に出てみると、ドアのまえに、たくさんの虫の死骸が落ちていた。どの虫も、羽や脚がちぎられてバラバラになっていた。
ちょうど、それは待ちぼうけを食わされた人が、大量の吸殻を残して立ち去った後のような感じだったという。
その後、さっちゃんからの連絡は、いまのところ、ない。

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2009年8月12日 (水)

マネキン

Oさんの実家はコンビニをやっている。
ある日、バイトのAさんがそのコンビニに出勤してみると、店先にマネキンが立っている。
ハーフっぽい顔立ちの男性のマネキン。服は着ていない。
なぜか両目はかなづちかなにかでめちゃくちゃに潰され、口はガムテープでX印に塞がれていた。
気味が悪いことこのうえない。
「てんちょー、なんすかこれぇ?」
「んー。よくわからないんだけど、朝きたらここにあった」
「どーするんすかこれぇ?」
「んー。悪いけど捨ててきてくれないかなあ」
そういうわけでAさんは、愛車の後部席に問題のマネキンを放り込むと、適当に車を走らせて、どこかの山奥の不法投棄されたゴミの中にマネキンを放り込んで帰ってきた。
車を飛ばしてコンビニに戻ってみると、驚いたことに店先に例のマネキンが立っていた。潰された目と、ガムテープで塞がれた口からして、Aさんが捨てたはずのマネキンだった。
その胸にペンキでひとこと
「ステルナ」
と書いてあった。

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2009年8月11日 (火)

白いひも

そのOさんは、人が消失する瞬間を、いちどだけ見たことがある。
社会人になったばかりの真夜中、ひとりでアパートに帰るとちゅうのことだった。
いつもの道を急いでいると、三十メートルくらい前方に、Oさんと同じように帰宅を急ぐ男がいる。
男は、ときどき立ち止まっては両手を頭上でふりまわしている。
虫でも追い払っているように見えた。といっても冬のことだったのでそんなに虫がいるはずがなかった。
やがてOさんは、男に追いついてしまった。
どうもまともな人じゃないな、と思っていたので、関わり合いにならないように、急ぎ足で通り過ぎようとした。
男はしかし、Oさんに大きな声で話かけてきた。
「おい、なんとかしてくれよ!」
なんの話をしているのやら、男が同じ問いかけをくりかえすうちに、Oさんにもわかってきた。
白いひもだった。
正確にはひもじゃなかったかもしれない。一メートルくらいの長さのそれは、男の頭上の空中を、風もないのにくねくねと舞っていた。
「どういうつもりなんだよ、あれほどいったのに、なんでなんだよ!」
男の剣幕はものすごく、Oさんはわけもわからないままただうなずくしかできなかった。
すると、いきなり白いひもがシュッと動いた。Oさんには、白いひもの先端が、男の頭のてっぺんに触れたように見えた。
とたんに、男の姿が、まるで折りたたむようにして消えてしまった。
男が消えると同時に、白いひもも消えていた。
ただ、Oさんはどうしても、男が白いひもにさらわれたとは思えなかった。
男はみょうにチグハクな服装だったし、顔も、怒鳴っているわりには表情がなかった。不自然なことこのうえない。
だからあれはさらわれたんじゃなくて回収されたんだ、とOさんは思っている。

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2009年8月10日 (月)

Hさんの同僚のOさんが大学生だった頃の話。
Oさんが住んでいたアパートには、しばしば足が出たという。
たぶん若い女、爪はきれいに手入れされ、肌も白く、すべすべしていた。
その女の足が、たとえば畳に寝ていて寝返りを打ったりすると、床から十センチくらいの空中に、爪先を下に向けて浮かんでいるのが目に入るのだ。
あッと思って見直そうとするとつぎの瞬間には消えてしまう。
そんなことが何回かつづいた。
こわいという感じはなかった。むしろ、あの足の上はどうなっているのか、ひょっとして美人なんじゃないかと、Oさんはだんだん気になってきた。
ある日、いつものように寝転がってテレビを見ていた。チャンネルを変えようとリモコンを探したら、目に飛び込んできた。
女の足である。
爪先を下に向けて、床から十センチくらいの空中に浮かんでいる。
とっさに女の顔をたしかめてやろうと視線を上に向けた。
いつもならすぐ消えてしまうはずのそれは、その日にかぎってどういうわけか消えなかった。
視線を天井のほうに向けるあいだに、しかしOさんは気づいてしまった、人間の足が、二本そろって床から十センチのところにぶらんとぶら下がっているのが、いったいどういう状況を意味しているのかを。だからといって、まるで強引に誘導されてでもいるように、見上げるのを止められなかった。
女の顔が目に飛び込んでくる直前に、Oさんはかたく目をつむった。
おかげで女の顔を見ることはできなかったが、Oさんはまったく後悔していないという。

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2009年8月 9日 (日)

うしろにいるよ

Hさんといえば、学生時代にこんなことがあった。
部屋でひとり、受験勉強をしていた。そろそろ日付が変わろうという時刻だった。
とつぜん声をかけられた。
「うしろにいるよ」
ささやくようなかぼそい声、しかしはっきりそう聞こえた。
そこは六畳の和室、いるのはHさんひとりのはずだった。両親は一階で寝ていたし、隣室を使っている弟は、部活の合宿でその夜は不在だった。
つまり二階にいるのはHさんだけだった。
にもかかわらず、その声ははっきりと聞こえた。うしろにいるよ、と。いったいうしろになにがいるというのか。それはなんのためにうしろにいるのか。考えれば考えるほど、Hさんはおそろしくなってきた。
ちょっとでも動こうとすれば背後から肩を叩かれそうな気がして、けっきょく朝まで机にかじりついたままだったという。

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2009年8月 7日 (金)

拍手

残業といえば、Hさんも深夜の会社でこんな体験をした。
そろそろ日付が変わろうという時間、必死に書類を作っていたら、とつぜんオフィスいっぱいに、盛大な拍手が鳴り響いたのだ。
それはもう、そこがオフィスじゃなくて満席のコンサートホールだとでもいうような万雷の拍手だった。
なにが起きているのか、まったくわけがわからない。びっくりしてオフィスじゅうを見まわしているあいだに、はじまったときと同じく唐突に拍手は鳴りやんだ。
きっと外の車の音が、あんなふうに聞こえたんだろう、とHさんは考えた。
さっそく大通りに面した窓から外をのぞこうとすると、そのガラスには、外側からびっしりと、無数の手形がつけられていた。
ひとさし指だけが異様に長い、サイズからするとぜんぶ子供の手形だったという。

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2009年8月 6日 (木)

ばさっ、ごろん

Tさんも徹夜覚悟の残業でへんな体験をした。
机に書類を広げてパソコンにデータを打ち込んでいると、手元になにかがばさっと垂れかかってくる。
不審に思って目を向けてもなにもない。
ところがパソコン仕事に戻ってしばらくすると、またばさっと垂れかかってくる。
オフィスに残っているのはTさんひとりだけだし、落ちてくるようなものも見当たらない。そもそも机上には書類があるだけで、なにも落ちてきてはいない。
首をひねりながら仕事に戻ると、またばさっときた。
今回は、広げた書類の上に長い黒髪が大量に落ちてきて、Tさんの背後にずずっと消えるのが目に入った。
まるでTさんの後ろに髪の長い人がいて、肩越しに手元をのぞきこもうとしているような感じだった。
といってもオフィスにいるのはTさんひとりだけ、どんなに見まわしてもほかにはだれもいない。
そういえばちょうど一年くらいまえ、ノイローゼになってこのビルの屋上から飛び降りたTさんの前任者は、腰に届くくらいの長い黒髪だったなあと思い出してこわくなった。
仕事なんかうっちゃってタクシーで帰っちゃおうと立ち上がりかけたら、机の上に、いままでなかったものがごろんと転がっているのが目に飛び込んできた。
生首だった。
それも髪の長い、落ち武者の。

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2009年8月 5日 (水)

踊り場

I君が階段を降りて行くと、踊り場に人がいた。
四階と三階のあいだの踊り場である。
蛍光灯が暗いのでよくわからないが、ロングコート姿の髪の長い女だった。今は夏。経費節減で冷房を切ったビルの中はひどく暑い。
なのに女はロングコートのボタンをぜんぶしっかりと留めている。
それが、踊り場で、I君の行く手を阻むように立っている。首が落ちてしまうんじゃないかというくらい深くうなだれているので顔はわからない。
I君が見つめていると、そいつがふいにぐいっと顔を上げてI君を見上げた。
とっさにI君は階段を駆け上がった。なぜか女の顔を見たら大変なことになると直感したのだという。
結局、I君は夜食をあきらめて、事務所に閉じこもって朝まで耐えたという。

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2009年8月 4日 (火)

エレベータ

I君が会社にひとりで残って徹夜したときの話。
真夜中にどうしても腹が空いてがまんできなくなった。
I君の会社は都内の繁華街の雑居ビルにある。ビルは五階だてで、I君の会社はその四階と五階を使っていた。
コンビニは会社のすぐそばにある。ちょっと出かけてカップ麺でも買ってくることにした。
ボタンを押してエレベータを待つ。
エレベータは一階から上がってきて、どういうわけかI君のいる四階を素通りすると五階で停まった。
夜中の二時。会社に残っているのはI君だけのはず。
もちろん五階にもだれもいないはずだから、だれかがエレベータを呼んだとは考えにくい。
かといってこんな時間にだれかが五階に行く用事があるとも思えない。
エレベータは五階に停まったまま、なかなか四階に降りてこない。だれかが乗り降りしているとしか思えなかった。
階段があるからか、ビルの造りが安っぽいからか、このビルでは耳をすますとほかの階の音がよく聞こえる。
I君は、なんだか五階の方がざわざわしているような気がしてきた。
エレベータが動きだした。
四階に降りてくる。
I君は、とりあえず階段を使うことにした。


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